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20000アクセス記念企画
森茉莉と結婚生活
どうも。2万アクセス記念企画っす。まいど森茉莉サイトを覗きに来てくれてありがとうございますです。
今回も「森茉莉ひとくちメモ」第4弾ですだ。1万5千アクセス記念で茉莉の息子たちのことを書いたので、今回はダンナについて。
息子たちの父親でもあった山田珠樹についてはこのサイトでもちょこちょこ書いてるんじゃが、珠樹と離婚した後に茉莉が
再婚したのは知らない人が多いのではなかろうか。いやあ、そうだったんですよ。
参考文献は森茉莉全集に入ってる随筆とか、『贅沢貧乏』とか、茉莉の妹や弟の書いた随筆とかいろいろ。
では次回、ネタがあったら25000アクセス記念企画で逢おう! <大丈夫か?
茉莉が16歳で山田珠樹と見合い結婚したのはご存知の通りだが、そもそも何故こんな縁談が舞い込んだのか。
そのへんの事情はよくわからないのであるが(じゃあ書くなよ)茉莉だって知らないのだから仕方がない。山田珠樹の実家は大変な資産家だったらしいから、金の次には家柄の良いところから嫁を貰おうということになって、森鴎外の長女である茉莉に白羽の矢が立ったのではあるまいか。鴎外の家は貧乏だけどインテリの家系だもんな。
この縁談に鴎外が飛びついたと聞くと少々意外に思えるかも知れないが、茉莉が何もできない娘であることは父親である森鴎外が一番良く知っていたからである。茉莉は学校から帰ると「かおあらうおゆ」と女中に命じる。女中がお湯を沸かして持ってくる。とにかくお湯一つ自分で沸かしたこともないのである。髪の毛だって自分で洗ったりはしないのだ。首を出していれば、女中が腕まくりをしてごしごし洗ってくれるのである。茉莉はとにかく着飾ってつんとして本でも読んでいれば良かったのである。羨ましいっちゃ羨ましいが、こんな娘がマトモな家に嫁に行って主婦ができるとは思えない。だもんで森鴎外は、なるべく金持ちの家に茉莉を嫁がせるより仕方がないと考えていた。だったらもう少し教育すれば良かったのにとワタシなんかは思うのだが、総ては後の祭である。
茉莉は山田珠樹の美貌を気に入ったらしい。見合いはトントン拍子に結婚へと進む。しかし後年、茉莉が嫌うようになった珠樹の性質をいち早く見抜いていた人物がいる。茉莉の母、志げである。
志げは珠樹の中にどうも酷薄な、冷たいところがあるのを見て、鴎外にそう言った。ならば結婚はやめにしようかということになり、茉莉にそのことを伝えると、承知しながらもつまらなそうな顔をしたらしい。
志げは、無関心に見えた茉莉がこの結婚に気があったらしいと思い、やはりそのまま結婚させることにしたのである。しかし後年、その話を志げから聞いた茉莉はビックリしたらしい。自分では全然覚えてなかったのである。このへん、やっぱり茉莉の考えていることは、何も考えていないのも含めて余人には良くわからないのである。
茉莉は山田の実家に嫁に入る。珠樹は長男で、家にはまだ結婚していない弟や妹が沢山いた。山田の家の家事を切り盛りしていたのは、舅の妾のお芳さんである。元は新橋の売れっ子芸者だった人で、珠樹たちの母親が亡くなった後、落籍されて山田の家に入ったのである。
茉莉はこのお芳さんがすごく好きだった。お芳さんがよく出来た人で何もできない茉莉のことを奥様奥様と立ててくれたこともあるし、着物の着こなしも料理も粋だったので子どもだった茉莉は純粋に憧れていたこともある。
大家族の中で茉莉がぼーっと過ごすうちに長男の爵(じゃっくが生まれ、そして欧州留学に行った珠樹の後を追って茉莉も欧州へ渡る。例の、一生引きずる私はパリジェンヌという妄想はこの時から発生したのである。
帰国後、茉莉と珠樹は山田の実家から独立。一家を構えることになる。
そして茉莉と珠樹の夫婦仲は、静かに冷えて行ったのである。
そもそもの不仲の原因は何だったのか。事実は誰にもわからないだろう。離婚について書き残しているのが茉莉の方だけなので、珠樹の側の言い分というのが聞けないからだ。
茉莉に言わせると、珠樹は冷たいのだという。そして信じられないくらい嫉妬深いのだと。
珠樹は病的なくらい嫉妬深く、陰湿だったと茉莉は言う。しかし嫉妬されるようなことは何もなかったのである。茉莉と何かあったのではないかと珠樹が疑っていたのは、友人の矢田部達郎のことではないだろうか。
確かに茉莉は彼に惹かれていたらしいが、それはあくまでもプラトニックで、恥じることは何もなかったのである。しかし珠樹は子どもの子守りに雇った女性に茉莉を見張らせ、茉莉に届く手紙もこっそり開封していたらしい。ホントにそうならちょっとした妄想である。家庭内ストーカーとでも言うべきか。フランス文学者の考えることはよくわからん。
事実かどうかは別として、この冷えきった夫婦の時代を描いた私小説風の短編に『青い栗』というのがある。興味のある方はどうぞ。新潮文庫『贅沢貧乏』の中に収録されているはずだ。
そういえば珠樹について、茉莉はこんな記述を残している。結婚する前、珠樹は鴎外に夫婦生活のやり方を教えてもらいに行ったのだと。勿論、自分は童貞なのでどうやったらいいかわからない、というのである。鴎外も親切と言うのか何と言うのか、丁寧に図まで描いて教えてやり、「茉莉はまだ初心なので、最初の夜は何もしないでやってくれたまえ」と珠樹に頼んだという。
しかし珠樹は童貞どころか花町に馴染んだ女がいて、珠樹が結婚するのを知って女が一騒ぎ起こしたことを茉莉は後に知る。
ことほど左様に珠樹は嘘つきだというハナシなのだが、この夫にしてこの舅ありというか何というか、どうも納得できないのはワタシだけだろうか。おかしいといえば母親の志げもどっかおかしいところがあって、結婚前の茉莉が女として正常かどうかを鴎外に確かめて欲しいと頼んだのである。鴎外はトイレの外にしゃがんで用を足す茉莉を盗み見て、「大丈夫だ」と太鼓判を押したらしい。
そりゃ鴎外は医学博士だけれども、そういう問題なのかと言うのである。どうもこの両親はよくわからん。
ハナシが逸れてしまった。
まあ茉莉の訴えにも一理あるが、一理はあってもニ理はないというのは実に茉莉にだって問題があったんじゃないかと思うからである。まず、茉莉は家事ができなかった。料理くらいはしただろうが……下ごしらえは女中がするので最後の味付けをするくらいにしてもまあやったことはやっただろう。とにかく女中への指図ができないのである。そりゃそうだろう、自分で家事をやった人間でなければ他人に指図なんかできるワケはないのだ。結果的に女中から馬鹿にされる。面白くないので遊びに行く。
遊びに行くのはいいが、出かけたら出かけたきり一向に帰って来ないのが茉莉である。芝居見物だのデパート巡りだのを繰り返し、ついには珠樹からじっと座っていろ、と命令されてしまう。この頃の茉莉の家に遊びに行った弟の類が、茉莉のことをこう書いている。
『一日中じっと座ったきり食べてばかりいるので、茉莉はずいぶん太ってしまった。』
……ストレスが溜まりまくっていたのであろう。
結局茉莉は幼い2人の息子を置いて離婚するが、その後、珠樹は茉莉に対してしつこく嫌がらせをしたらしい。『世間に顔向けできないようにしてやる』と周り中に言いふらした(陰険だな)ことの一つに『茉莉は淫乱だ』というのがあった。こんなことを元のダンナに言いふらされた日には目も当てられない。茉莉にとっては大打撃である。
茉莉が淫乱かどうか事実は調べようもないのだが、思い当たる節が茉莉にあるとすれば、夫のベッドに自分から進んで入って行ったことではないだろうか。それは何も夫婦生活を求めてではなく、父親のようにただ抱いて欲しかっただけなのだが、明治の男である珠樹にとってはビックリすることであったのかも知れない。
『私は夫というものは父親のように甘やかしてくれ、愛してくれるものだと思っていたので、夫も自分に愛してほしいのだと
いうことは、考えたこともなかった。』
もうこうなると、どっちもどっちとしか言いようがないような気がする。
珠樹と離婚し、実家に帰ったのが24歳。27歳の時に、再び茉莉は結婚する。相手は東北帝大医学部教授・佐藤彰である。相手も再婚である。確か奥さんが亡くなっていて、成人した娘が2人いたとどこかで読んだことがある。(←ここんとこ曖昧でスマン)
仙台に嫁いだ茉莉だが、結局1年足らずで離婚に至る。勝手に実家に帰ってきた茉莉に向うの身内の夫人が言った。
『茉莉さんは、仙台には銀座も三越もないと仰るんですもの。それでは仕方ないわ。』
いいかげんにしろと言うのである。
茉莉は結婚には向かない人だった。一人で気ままに暮しているのが、一番幸せな人だった。
けれどそれは、どうも茉莉自身が『私はできなくても仕方がない』とか『私は特別だ』とか、根拠のない甘えに浸っていたからではないのかという気がする。だからこそ独自の世界を築き、文学者として頭角を現したのだとは思うが、現実にはあまりお付き合いしたくない人には違いない。
そして、そんな茉莉に育ててしまったのは森鴎外なのである。鴎外は茉莉を可愛がりすぎた。本当の愛情とは甘やかすことではなく、自分がいなくなった後も生きて行けるように躾ることだとは考えなかった。金持ちと結婚させればいいと思っていた。
しかしいくら金持ちと結婚しても、幸せになれるとは限らないことを鴎外は知ろうとしなかった。知りたくなかったのかもしれない。
茉莉にとって一番不幸だったのは、鴎外と結婚できなかったことに違いないのだ。
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